離職ゼロを目指す医療現場改革──コメディカルが定着する職場の条件とは

  • 人材が定着する医療現場のつくり方
  • 2025年7月7日

放射線技師や臨床検査技師など、コメディカルの離職率は依然として高止まりしており、多くの医療法人が定着支援に苦慮している。
本記事では、技師に特化した離職理由の分析からスタートし、定着率を高めるための施策、現場で実践されている好事例、人材育成や評価制度の工夫など、安定した職場環境を築くための具体的なアプローチを解説する。

医療従事者の定着率が問われる時代背景

近年、医療機関における重要な課題のひとつに、医療従事者の離職があります。
中でも放射線技師や臨床検査技師といった技師職は、その業務の専門性の高さゆえに、1人の離脱が現場に大きな影響を与えるという特徴があります。

厚生労働省が実施した「医療従事者の勤務実態調査(2022年)」では、技師職における離職理由として「人間関係の悪化」「キャリアパスが見えない」「業務量と報酬が釣り合っていない」といった点が挙げられています。
これらは個人の資質や事情に還元できる問題ではなく、医療機関の制度設計や職場文化に深く根ざした構造的課題といえます。
定着率を改善するには、現場の声を汲み取りながら、制度と文化の両面から抜本的な見直しが求められます。

適正評価が定着の第一歩

医療従事者が長く働きたいと思うためには、「自分の働きがきちんと見てもらえている」「評価に納得できる」といった実感が欠かせません。
特に技師職は、医師や看護師に比べて業務成果が可視化されにくいため、評価の基準が曖昧だとモチベーションの低下につながりやすい傾向にあります。
その対策としては、検査精度・稼働率・安全管理といった業務の指標を明確にし、成果だけでなく行動面の評価も取り入れる必要があります。

さらに、360度評価や定期的な面談を通じて、上司・同僚・本人の3者で認識をすり合わせる仕組みを構築することが効果的です。
評価と報酬の連動性を高めるだけでなく、評価プロセスの透明性を担保することで、日々の業務への納得感が生まれ、職場への信頼にもつながります。

キャリアパスと育成制度が安心感を生む

長期的な人材定着を図る上では、将来に対する見通しを職員に与えることが重要です。
具体的には、「中堅→主任→技師長」といった昇進ルートの提示に加え、認定資格取得への支援、外部研修への参加促進など、成長実感が得られる環境づくりが必要です。

また、新人職員の早期離職を防ぐには、育成計画とフォローアップの設計が欠かせません。
プリセプター制度や1年目カリキュラムの整備、定期面談による進捗確認といった仕組みを通じて、不安を抱えがちな初期段階に安心感を提供することが効果を発揮します。
医療現場におけるキャリアパスは、単なる昇進だけでなく「専門性の深化」や「多職種連携」など多様な方向性が求められています。
個々の志向や特性に応じたキャリア支援を行うことが、長期的な人材定着に直結します。

離職率の低い職場の共通点

実際に高い定着率を維持している医療機関にはいくつかの共通点があります。
第一に、「多職種間の連携が良好であること」が挙げられます。放射線技師や検査技師が、医師や看護師と対等に意見交換できる風土が整っており、それぞれの役割が尊重されている職場では、離職率が低い傾向にあります。

また、「日常的な対話の場」が存在していることも重要です。定期的な1on1ミーティングや部門内の意見共有会議など、声を上げやすい雰囲気が職場への愛着を育てます。
たとえば、ある中規模病院では、技師による業務改善提案を月ごとに発表し、実行されたものには報奨金を支給する制度を導入しています。
こうした制度は、「自分たちの意見が現場を変えられる」という実感を生み、職員の自律性と定着意欲を大きく向上させます。

離職ゼロに向けた具体的アクション

離職率を下げ、定着率を高めるためには、以下のようなアクションを組織として明確に実行していく必要があります。

  • ・評価制度の明文化と運用定着
  • ・定期的なキャリア面談と目標設定の共有
  • ・離職傾向データの蓄積と改善サイクルの構築
  • ・職員からの意見を吸い上げる制度化(アンケート・改善提案)
  • ・「ありがとう」「助かった」といった称賛が自然に飛び交う文化の醸成


これらの取り組みはすぐに成果が出るものではありませんが、積み重ねることで確実に職場の空気は変わります。
とくに、技師職のように採用が難しく、現場への影響が大きい職種こそ、定着を最優先に据えるべきです。
採用力に頼らず、今いる人が「ここで働き続けたい」と感じられる環境を整えること。
それこそが、医療機関にとって最も確実で持続可能な人材戦略であるといえます。

まとめ

放射線技師や検査技師など、専門性の高い医療従事者の離職を防ぐには、評価制度の明確化やキャリアパスの提示、働きやすい職場文化の形成が不可欠です。
本記事では、実際の医療現場の取り組みを踏まえながら、定着率を高めるための制度設計と現場改善策を具体的に解説します。

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